『クロキノール(Crokinole)』は、中央に穴の開いた円形ボードを用いるおはじきゲームです。日本では『クロックノール』あるいは『クロック』とも呼ばれます。商品名としては『エポック社の闘球盤』が有名でしょう。しばしば混同されますが、四隅に穴の開いた正方形ボードを用いる『カロム』あるいは『キャロム』とは別のゲームです。
伝統ゲームの例にもれず『クロキノール』の遊び方には地域や時代によってさまざまなヴァリアントが見られます。そこで、日本で最初に普及したであろう遊び方『クロック』について調べてみました。
特に参考になったのは国会図書館に保管されていた『クロック術』(花王居主人/高見書店/1903年)です。
同書によれば「クロックは数年前松本在住の英國人マグニス氏が、本國より初めて取寄せられたのを、(中略)、今日では非常の速度を以て流行しつゝある」
(第1章)そしてまた「この遊戯は未だ大都會にも發達して居ない、最も發達し研究されて居るのは長野縣殊に松本地方である」
(第6章)とあります。1903年といえば日露戦争直前の明治36年にあたります。同時期あるいはこれ以前に他の地方で流行してた可能性もありますが、他に文献も見当たりませんし、おそらく同書が最初で間違いないでしょう。
余談になりますが、昭和天皇が8歳(1910年)の頃にしばしばお遊びになられたという『クロックノール』のルールは、年代的に同書のものであろうと考えられます。また、環境的に2人プレイではなく4人プレイだったと推察されます。
『クロック術』で紹介されているルールを以下に要約します。用具があればこの要約だけでプレイできると思います。
独特の用語がいくつか見られます。例えば、相手の球をはじいて自分の球を穴に入れることをバンクシャーと呼び、相手の複数の球をはじき出すことをコンビネーションと呼びます。
『クロック』として紹介されたルールは必ずしも標準的なルールと同一ではありません。実際に同書では「本家たる英国の仕方では盤上に敵球あれば何時でも必ず之を打たねばならぬとしてある、が之れでは甚だ興味が薄く単調であるので、松本の先輩方は研究の結果本書に掲げた方法を採用されて居る」
(第7章)とあります。
その他の違いとして、標準的なルールではペグが8本で球が各12枚であるのに対し、この『クロック』では6本そして各10枚となってます。また、相手の球を穴に落としたときには半分の10点となってます。
そして、標準的なルールで明記されている「椅子から立ち上がってプレイしてはならない」についても、相当する記述は見当たりません。ただ、これは球の紛失や汚損を予防する為のものと考えられるので、ルールではなくマナーとして確立していた可能性は十分にありえます。
標準的なルールでは、盤上に敵球があれば当てなければならない(must hit)と定められてます。もうちょっと詳しく書くと以下のようになります。
この「当てなければならない」は20点穴(Toad)を狙うだけの単調な展開を防ぐ為のものです。そして「15点圏内に入れなければならない」は安全地帯に隠すような打ち出しを禁じる為のものです(no hiding)。いずれも失敗すると、打ち出された球および当てられた全ての自球は盤上から取り除かれます。
「盤上に自球だけが存在する場合には自由に打ち出してよい」とするヴァリアントもあります。『パズルコレクション(No111)』(アシェット社/2009年)などによると、『エポック社の闘球盤』では「盤上に1つも駒がないときは必ず中央のピンに当てなければなりません」
とされてます。
ルール | 杭数/球数 | 盤上に球なし | 敵球あり | 自球のみ | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
Crokinole | 8本/各12枚 | WithIn 15 | Must Hit Opp | WithIn 15 | --- |
Crokinole | 8本/各12枚 | WithIn 15 | Must Hit Opp | Free | ヴァリアント |
クロック | 6本/各10枚 | Free | Free | Free | 最終手番は例外 |
闘球盤 | 6本/各10枚 | Must Hit Peg | Must hit Opp | Free | エポック |
ひのきノール | 8本/各12枚 | Free | Must hit Opp | Free | DDT/2016年 |
クロキノール | 8本/各12枚 | Free | Must hit Opp | Free | YaoFish |
ルールの相違点から考えるに、昭和初期の『闘球盤』は明治の『クロック』を参考にしたものであり、現代に販売されている『クロキノール』は海外の『Clokinole』を参考にしていると思われます。
オプションルール「球が盤外に飛び出してしまったら1個につきマイナス5点」を採用すると、勝利を目指さないパワープレイを抑制できます。採用を強く推奨します。
『闘球盤』と呼ばれるボードゲームはおおざっぱに2種類あります。
ひとつがこのページで扱っている『クロキノール』です。カーリングやシャッフルボードに似ています。かつてエポック社から発売されてた『闘球盤』はクロキノールの系統です。
そして、もうひとつが『カロム』です。こちらはビリヤードに似ています。現代では彦根市のものが有名です。南極カロムとして知ってる人もいるでしょう。岩手県では、闘球盤といえばこのカロム系のものを指します。1975年にエポック社から発売された『アメリカンスナップ』はカロムの系統です。
長野県安曇野地方には現在もなお『クロック』が伝承されてます。2011年6月に山形村から安曇追分まで辿りました。
2016年11月、新たにヒノキ製『クロキノール』(DDT)を購入。通称“ヒノキノール”。球サイズは直径30mm・厚さ10mm・重さ4.4g。外箱サイズは縦68cm・横67cm・厚4cm。ボードからはちゃんとヒノキの香りが感じられます(スギとヒノキに限っては植林からアロマまで詳しいのです)。ちなみに精油成分ヒノキチオールは日本のヒノキにはわずかしか含まれずむしろ青森ヒバに多く含まれます。余談ですが、身蓋箱なので輸送用ケースが必要です。キャンバスバッグ『F20用CA20(横830×縦670mm)』(ミネルバ)を買いました。
2020年6月。Yaofish製クロキノールを購入。球サイズは直径28mm・厚さ11mm・重さ4.3g。外箱サイズは縦72cm・横69cm・厚7cm。
『闘球盤』とは球で闘う盤ゲームらしいです?