『賽本引き(サイ本引き,サイホンビキ)』は、胴師が札を選ぶのではなくダイス目を用いるように『手本引き』を改変したものです。
ちなみに、『手本引き』では「繰り札または引き札(胴師用6枚)」と「目木または目安札(6枚)」と「張り札(賭客に各6枚)」の3種類の札が用いられますが、『賽本引き』では繰り札の代わりにダイスが用いられます。
賭博としてではなくゲームとして紹介する意図を込めて、ゲームシステムに関わり無い要素(儀礼的な要素やライターの置き方など)は省略させて頂きます。
地方によっては、用具(張り札や目安札)の入手にそれなりの責任が伴う可能性があることもご承知ください。
ゲームシステムの観点から言えば、手本引きから賽本引きへの改変は結果的に、不正の余地を激減させたものの、駆け引きや心理戦の要素もなくしてしまった。張り方に特徴があるだけの『ちょぼいち』や『ヨイド』の類型になったと言っても過言ではない。実際に、目安札のゲームシステム上の存在意義はほとんどなくなっている。
『賽本引き』は、歴史的・文化的には手本引き同様に面白いものではあるが、ゲーム研究的にはいささかつまらない。むしろ、運の要素が絡まない心理戦である手本引きの方が、より興味深く思う。
『手本引き』に似ているゲームとして『グリコ・パイナップル・チョコレート』を思いつく。じゃんけんでポイント(移動量)を稼ぐ単純なゲームだ。グーで勝てば3点、パー又はチョキで勝てば6点を得ることができる。このゲームを二人でプレイする場合の最適混合戦略は、グー、パー、チョキをそれぞれ、40%、20%、40%の確率で出すというものだ。
『手本引き』においては、乱数(又は擬似乱数)が用いられているのでない限り、胴師が選ぶ繰り札の確率は(1/6)にならない。そして、子が選ぶ張り札(スイチの場合)の確率も同様だ。もしも一定の偏向を見出すことができれば(理屈の上では)期待値は上昇する。問題は、その偏向状態から最適混合戦略を算出するアルゴリズムが未完成であるということだ。
プロ(?)は胴師のときも張り子のときも、目安札の最初2枚と最後2枚とを選択肢とすることが多いそうです。仮に、それら4つが各20%で残り2つが各10%になっているならば、最適混合戦略が算出できますね。
手本引きにおけるイカサマの屏風はニセ札を用いるもので、小手返しはすりかえるというものです。また、胴師と張り子とが通しサインを用いたりすることもあります。サイコロを用いるサイ本引きではこれらのイカサマは起こりにくくなっています。しかし、サイコロ賭博の常道であるイカサマ賽などの可能性はやはりぬぐいきれません。