賽本引き(サイ本引き)

賽本引き(サイ本引き,サイホンビキ)』は、胴師が札を選ぶのではなくダイス目を用いるように『手本引き』を改変したものです。

ちなみに、『手本引き』では「繰り札または引き札(胴師用6枚)」と「目木または目安札(6枚)」と「張り札(賭客に各6枚)」の3種類の札が用いられますが、『賽本引き』では繰り札の代わりにダイスが用いられます。

賭博としてではなくゲームとして紹介する意図を込めて、ゲームシステムに関わり無い要素(儀礼的な要素やライターの置き方など)は省略させて頂きます。

ルール

プレイ人数
2人以上。
用具
普通の6面体ダイスを2個。湯飲み(ダイスカップ)。
胴師(親)の前に並べる「目安札」
張り子が用いる「張り札」。「通り札」と「半丁札」。
ズク(チップ)を適宜
所要時間
1ゲームあたり数〜十分程度。
目的と勝敗
出目を当てて、チップを稼ぐこと。

ゲームの手順

  1. 親を決めます。目安札を横一列に並べます(最初のゲームのとき)。
  2. 親はダイスカップの中に、ダイス2個を振り入れて伏せます。
  3. 子は、張り札とチップを出すことによって、任意の目に張ります。張り札は裏向きに出します。張り方は1点張りから4点張りまであり、それぞれ名前がついています。
    • 「スイチ」「ポンキ」 … 1点張り(配当4.5倍)。
    • 「グニ張り」 … 2点張り(2.6倍と1.0倍)。
    • 「キツから」 … 2点張り(3.0倍と0.6倍)。
    • 「ケッタツ」 … 2点張り(3.6倍と0.0倍)。
    • 「九一(クイチ)」 … 3点張り(1.5倍と1.0倍と0.3倍)。
    • 「ロクサンピン」 … 3点張り(2.0倍と0.6倍と0.2倍)。
    • 「ヤマポン」 … 3点張り(2.8倍と0.0倍と0.0倍)。
    • 「トマリ8分」 … 3点張り(1.0倍と1.0倍と0.8倍)。
    • 「石塔張り(安張り)」 … 4点張り(1.0倍と0.8倍と0.2倍とマイナス0.2倍)。
    • 「ソウダイ」 … 4点張り(2.0倍と0.0倍と0.0倍とマイナス0.2倍)。
    • その他「ピンチュウ」「総裏」「雛型」など … 特殊。
  4. ダイスカップをオープンし、出目の和を計算します。もし出目の和が6を越えていたら、6以下になるまで6を引きます。
  5. 親は、出目をあらわす目安札を親から見て最も右に並び替えます。出目のうち大きい方の目を表す目安札だけを少し突き出します。(例)5と4が出たならば3を右に移し5を少し突き出します。
  6. 配当を計算します。当たっていれば掛け金は戻ります。

オプションルール

市販品の状況

地方によっては、用具(張り札や目安札)の入手にそれなりの責任が伴う可能性があることもご承知ください。

感想・評価

ゲームシステムの観点から言えば、手本引きから賽本引きへの改変は結果的に、不正の余地を激減させたものの、駆け引きや心理戦の要素もなくしてしまった。張り方に特徴があるだけの『ちょぼいち』や『ヨイド』の類型になったと言っても過言ではない。実際に、目安札のゲームシステム上の存在意義はほとんどなくなっている。

『手本引き』における最適混合戦略

『賽本引き』は、歴史的・文化的には手本引き同様に面白いものではあるが、ゲーム研究的にはいささかつまらない。むしろ、運の要素が絡まない心理戦である手本引きの方が、より興味深く思う。

『手本引き』に似ているゲームとして『グリコ・パイナップル・チョコレート』を思いつく。じゃんけんでポイント(移動量)を稼ぐ単純なゲームだ。グーで勝てば3点、パー又はチョキで勝てば6点を得ることができる。このゲームを二人でプレイする場合の最適混合戦略は、グー、パー、チョキをそれぞれ、40%、20%、40%の確率で出すというものだ。

『手本引き』においては、乱数(又は擬似乱数)が用いられているのでない限り、胴師が選ぶ繰り札の確率は(1/6)にならない。そして、子が選ぶ張り札(スイチの場合)の確率も同様だ。もしも一定の偏向を見出すことができれば(理屈の上では)期待値は上昇する。問題は、その偏向状態から最適混合戦略を算出するアルゴリズムが未完成であるということだ。

プロ(?)は胴師のときも張り子のときも、目安札の最初2枚と最後2枚とを選択肢とすることが多いそうです。仮に、それら4つが各20%で残り2つが各10%になっているならば、最適混合戦略が算出できますね。

イカサマ

手本引きにおけるイカサマの屏風ニセ札を用いるもので、小手返しすりかえるというものです。また、胴師と張り子とが通しサインを用いたりすることもあります。サイコロを用いるサイ本引きではこれらのイカサマは起こりにくくなっています。しかし、サイコロ賭博の常道であるイカサマ賽などの可能性はやはりぬぐいきれません。

Satoshi ARAI ( arai@luminet.jp )